ニューヨークは記録的な暖冬のあと、例年よりも数週間も早く花の季節を迎えた。4月も半ばに差しかかろうかという現在は、既に街路樹は新緑が萌え陽気な日が続く。そんな中、今年は4月8日(日)がイースター(復活祭)で、5番街では恒例のイースターパレードが開催された。
そんな季節にもうひとつ復活したものがある。
「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street , OWS)」だ。暖冬といっても、さすがに外で過ごすのは厳しいニューヨークだからか、冬の間は目立った活動をしていなかったが、活動開始からちょうど半年となる3月17日には記念の抗議行動を起こした。「警察の行き過ぎた力の行使に抗議する」などとメッセージを掲げ、実際にその警察と衝突して逮捕者が出るなどヘッドラインをにぎわせた。その1週間後には、ブルックリン・ブリッジでの抗議行動から半年を記念するデモを実施。半年前は800人というOWSとして最多の逮捕者が出たが、この日は逮捕者もなく平穏なものに終わった。
こうしてOWSは復活したものの、昨年11月15日にNY証券取引所裏のズコッティ公園のキャンプが強制撤去となって以来、彼らにかつてのような本拠地はない。数百人もいるコアメンバーは、以前のように同じ場所で共同生活ができない代わりに、必要な時にすぐ動けるようネット上でのコミュニケーションを冬の間に徹底したという。その結果、彼らは自分たちをOccupy Wall Street2.0と呼んでいる。しかし、ほとんど冬眠状態だったこの数カ月の間も、この運動が社会に大きな影響を与え続けていたことは注目に値する。
では、ここでもう一度「Occupy Wall Street=OWS」とは何であるかをおさらいしておこう。リーマンショックのちょうど3年後に立ち上がったOWSであるが、その活動目的は「現在のアメリカでは、人口のたった1パーセントが全ての富の4割近くを所有している」という事実がいかに不公平かをアピールするものだ。資本主義とはいえ
1%の富豪がさらに私腹を肥やし、残りの99%から搾取している構図はおかしい、とみんなで抗議しようというのだ。そしてこの活動の中心は、ITに精通した若者たちだ。学業も人並み以上にがんばったものの、就職難で働きたくても職に就けない者も多い。社会人としては弱者であり、富豪の対極にいると考えられなくもない。彼らにとって今のアメリカは、夢や希望が果てしなく遠く感じるようだ。OWSは、そんな彼らが「今のシステムは何かおかしい」と、ソーシャル・メディアもフル活用して、世界中の人々に喧伝し続けている活動なのだ。そして、どうやら徐々に大きな効果が出始めている。
ここに、最近発表された興味深い調査結果がある(2012 Makovsky Wall Street Reputation Study)。調査対象はOWSのターゲットである1%、つまり金融業界の重役たちだ。驚くべきことに彼らの96%が、
金融業界へのネガティブなイメージは自分たちに責任があると答えたのだ。また74%が、OWSは世論に大きな影響を与えており、これからも与え続けると答えている。これほどの大きな社会運動を目の当たりにしたことで、初めて自分たちの非をはっきりと認めたと言って良いだろう。また、先日ゴールドマン・サックスの元重役が社内の腐敗ぶりを暴露する本を出すというニュースが流れたのだが、このことからも金融業界の反省ムードが窺える。
さらには、今年11月の
アメリカ大統領選挙にも大きな影響を与えるかもしれない。アメリカは2大政党制であるが、現在の大統領であるバラク・オバマは民主党だ。今年の大統領選は、オバマ(民主党)VS共和党の代表となる。打倒オバマ(民主党)を目指す共和党の候補者に共通していた公約は、「経済復興のための
減税と規制の撤廃」である。保守派の共和党は、基本理念として「小さな政府」を目指す政党だから、減税と規制撤廃は当たり前の方針である。前ブッシュ政権も共和党であり、減税と規制撤廃を徹底的に進めたことはよく知られている。
ところが、この方針はOWSに目の敵にされているものなのだ。というのも、今ではブッシュ政権が進めた減税策が高所得者に特に有利に働いたことで、貧富の差が極端に開いたと理解されている。さらに規制撤廃による自由をウォールストリートの金融機関が濫用し、その結果リーマンショックが起こったというのが現在の通説だ。実は先述の調査では、ウォールストリートの重役たちの74%も、金融機関が信頼を取り戻すためには規制を強化した方が良いと答えている。そして、昨秋にはOWSの主張を受けて、富裕層のグループが
「もっと自分たちに課税して欲しい」と議会に乗り込んでアピールしたこともあったくらいだ。
このように、
金融業界からは「規制して欲しい」、富裕層からは「増税して欲しい」という自虐的な声が出ている中にあって、「減税、規制排除」を打ち出す共和党は現実から乖離しすぎている、という声も上がっている。
共和党の候補者選びも大詰めを迎え、ロムニー候補とオバマ大統領の一騎打ちが確実視される中、こうした世論を受けてロムニー候補がどう選挙戦を進めて行くのかが注目されている。最大の焦点は、これまでの予備選では共和党支持者にのみ向けられていた「減税と規制撤廃」という公約を軌道修正するのかどうかだ。さらに、OWSがこれにどう絡んでいくかも気になるところだ。
OWSの次の抗議行動は5月1日。メイ・デイでの大規模なストライキを呼びかけている。いったいどんな行動が行われるのか、どんな影響を与えるのかが注目される。